ジョギングやバスケットボールなどをしている人で、ひざの外側の出っ張りの辺りが痛くなるケースで多いのが腸脛靭帯炎です。整形外科や整骨院などで「安静にしていれば治ります」と言われたのに、完治しても再発を繰り返したり、なかなか治らず練習を再開できずに悩んでいる人が多いようです。
腸脛靭帯炎が完治しない人は、膝関節の屈伸動作がまっすぐにできていないことが大きな要因と考えられます。まっすぐな屈伸動作ができるようになるには、足のアライメント(整列具合)、足の前後左右の筋力バランス、柔軟性、走り方のフォームなどのさまざまな角度からのアプローチが必要になります。つまり、長引く腸脛靭帯炎は、結果的に膝の外側に負担が溜まって痛みが出ているのであって、元々の原因が膝の外側ではないと考えられます。
今回は、腸脛靭帯炎の完治・再発防止について解説します。
腸脛靭帯炎(ランナー膝)とは?
腸脛靱帯炎は走ることの多い人に多く、特にランニングフォームのストライドの広い人が痛めやすい、膝の外側の出っ張り(大腿骨外顆<がいか>)の辺りが痛くなる症状です。そのため、ランナー膝と呼ばれることもあります。膝の曲げ伸ばしを繰り返すことによって、太ももの外側にある腸脛靱帯が大腿骨外顆の上を反復してこすれているうちに炎症(滑膜炎)を起こすことが、痛みだす原因です。特にマラソンなどの長距離ランナーやバスケットボール、水泳、自転車などをしていると起こりやすい状態です。
主に使い過ぎ(オーバーユース)の時に起こりやすく、ランニングの時間や距離が長すぎたり、ウォーミングアップ不足で柔軟性が欠如していたりする時に、休養不足が重なった時は注意が必要です。また、硬い路面や下り坂を走ると膝に負担が溜まりやすく、更に硬いシューズだとダメージが蓄積しやすくなります。こういった条件に、足の骨の配列に膝が反ってしまう内反膝などのゆがみがあると、腸脛靭帯炎になるリスクが高くなってきます。
腸脛靭帯炎の症状
腸脛靭帯炎になるとひざの外側の出っ張り(大腿骨外顆)の辺りが、走ったり歩いたりしている時に地面に足が接地し体重が乗る時に痛くなります。押した時にも鈍い痛みを確認できます。太ももの外側にある腸脛靱帯は明らかに緊張が原因なので、太ももの外側が固くなり、場合によっては腸脛靱帯に沿って痛みが出ることもあります。
痛み始めははランニングの後に痛みが出ますが、時間が経つと痛みは消えてしまいます。しかし、この状態を放っておいてランニングを続けると、次第にオーバーユースの負担が蓄積して痛みが強くなり、徐々に痛みが引きにくくなり、痛みのために走れなくなることもあります。
ひざの外側の痛みの場合は、よく似た症状に外側半月板損傷があるので、見分けることが大切です。またひざの内側には、似たように走り込みなどのオーバーユースで生じる鵞足炎(がそくえん)があります。痛みが出た時は自己判断せず、整形外科を受診しましょう。
腸脛靭帯炎(ランナー膝)
腸脛靭帯炎の治療・予防法
腸脛靭帯炎の原因は走り込みなどによる使い過ぎなので、トレーニングを中止して安静にすることが原則です。そして、疲労が蓄積して固くなっている太ももの外側の大腿筋膜張筋やお尻の殿筋など、股関節の外側の筋肉を念入りにストレッチします。
整形外科を受診すると、消炎鎮痛剤が投与されたり、超音波などの物理療法が行われます。
痛み出しても対処せず放っておくと、症状が定着してしまって簡単に痛みが引かなくなってしまうので、痛み始めにきちんと休めること決断をすることが重要です。中高生の運動部員はトレーニングを優先するあまり、痛みが長期化することもあるので、周りの大人が適切に判断し助言することも大切になります。
安静にして大腿骨外顆周辺を押してもいたくなくなったら、ランニングを再開できます。最初は、芝生などクッション性の高い地面で軽いジョギングから、痛みの出ない距離・スピードで体を慣らし、焦らず慎重にトレーニングの負荷を上げていきましょう。症状が安定するまでは、絶対に下り坂での走り込みは避けて下さい。
トラックをいつも同じ方向に回っていると、片方の膝に負担が溜まりやすくなるので、クールダウンの時などに普段と反対回りでトラックを走ることは腸脛靭帯炎の予防になります。
また腸脛靭帯炎は膝だけの問題ではなく、扁平足などの土踏まずのアーチの歪みや合わない靴が原因で、O脚など足の歪みが起こり、その負担の蓄積が痛みの原因になっていることがあります。このような場合には、オーダメイド矯正インソールで土踏まずのアーチを矯正したり、自分の足に合った靴を選ぶことが必要です。それなので、足や靴から体を診ることのできる専門家に相談することも、腸脛靭帯炎の改善や予防に大切なことと言えます。
大腿筋膜張筋ストレッチ
腸脛靭帯炎の改善・予防には太ももの外側の大腿筋膜張筋のストレッチが効果的です。
①伸ばす側の手を壁に着けて体を支え、伸ばす足を後ろにクロスします。
②逆側の手で骨盤を壁に向かって押し込むと、大腿筋膜張筋がストレッチされます。
1日3回ずつ、1回につき40秒行いましょう。
殿筋ストレッチ
お尻の殿筋群のストレッチも腸脛靭帯炎には効果的です。
①イスに座り伸ばす側の足を逆側のひざに乗せます。
②伸ばす側の手はひざを地面に向かって押し込み、逆側の手は足首を持ってお腹に引き付けます。
まとめ~腸脛靭帯炎の治療や予防は足全体のバランスを考えることが大切
腸脛靭帯炎は主に痛むのが膝の外側なので、膝だけの問題として考えてしまいがちです。しかし実は腸脛靭帯炎の原因には、足全体の筋肉バランスや骨の整列具合も大きくかかわっているので、腸脛靭帯に関わるお尻や太ももの外側の筋肉のケア、そして土踏まずのアーチと関わる足首や膝の歪みへの対処をしていかなければ、早期の回復や再発予防することができません。
腸脛靭帯炎になって痛みが長期化していたり、再発を繰り返していたりする人は、足全体のバランスを整える対処が不足しているのかもしれません。お困りでしたら、お近くのフットマスターへご相談下さい。
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